ヤシの実のアジア学

鶴見良行・宮内泰介 編著
A5判/360ページ/本体3200円+税
1996年11月/978-4906640003

洗剤、油、マーガリン、タワシ、ラタン、活性炭……。ヤシなしでは日本人の生活は成り立たない。一方アジア諸国では主食、建材、船材と更に重要度が高い。ヤシを切り口にアジアと日本の関係を問う、市民と研究者の共同研究。

目次

第1部 ヤシと日本人
 〈コラム〉ヤシとアジアと日本/鶴見良行
 第1章 見えるヤシから見えないヤシへ/宮内泰介
 第2章 日本人の食を変えたヤシ/石川 清
 第3章 清潔シンドロームがヤシを招く/石川 清
 第4章 ヤシの実六億七〇〇〇万個の憂鬱/藤林 泰
 第5章 タワシと私/田中里恵子
 〈コラム〉アジアの暮らしを結ぶ「海の道」/鶴見良行

第2部 ヤシのある暮らし
 第1章 サゴヤシの社会史/宮内泰介
 第2章 ヤシ酒呑みのヤシ酒紀行/赤嶺 淳
 〈コラム〉ネグロス島のヤシ酒/佐竹眞明
 第3章 ヤシのある風景と生活/森本 孝
 第4章 ココヤシの姉妹スリランカ/白蓋由喜
 第5章 パルミラヤシからの地域づくり/パルミラヤシ職業開発グループ
 〈コラム〉海から陸を見る/鶴見良行

第3部 商品化と多国籍企業・プランテーション
 第1章 アブラヤシ生産とマレーシア/加治佐敬
 第2章 マレーシアのアブラヤシ・プランテーション/リム・テック・ギー、スミタ・ガネーシャラトナム
 第3章 アブラヤシ生産の発展と移民労働者/鶴見良行
 第4章 フィリピンのココヤシ化学産業/M・Eバイチョン、C・アキノ、R・ティグラオ
 〈コラム〉フィリピンとココヤシ/赤嶺 淳
 第5章 アブラヤシ・プランテーションの乱開発/鈴木宏二

ヤシ研究会と鶴見良行さん──あとがきに代えて/宮内泰介

書評

書評オープン


 ヤシ。遠い南国の植物と思いがちだが、私たちの暮らしと密接に結びついている。洗剤をはじめ、油、タワシ、活性炭などの原料の多くはヤシ。輸入量が飛躍的に伸び、日本人の「便利で清潔な生活」を支える一方で、現地ではプランテーションによる環境破壊も進んでいる。そんなヤシについて、「ヤシ研究会」が国内の使われ方や海外の栽培現場を調べた結果を報告書として、「ヤシの実のアジア学」という本にまとめた。
「ヤシ研究会」は1988年、「バナナと日本人」「ナマコの眼」などの著書がある故鶴見良行さんが呼びかけ、結成された。メンバーは最盛時で、大学の研究者や会社員、学生ら約四十人。日本でヤシがどのように使われ、また、栽培する住民の暮らしはどうなっているのか。そんな疑問が研究会のスタートだった。
消費されるパーム油の68%が食用。健康志向の高まりから「植物性油脂」が好まれるようになったという。油脂の8割にパーム油を使うという即席めんやスナック菓子の分野での利用が多い。
研究会の主要メンバーの宮内泰介・福井県立大助教授は「ヤシは目に見えないところで私たちの日常を取り囲んでいる。普通の人にも興味を持ってもらい、ここから身近な問題として、関心が広がってくれればいい」と話している。

『朝日新聞』(1996年12月1日より)