実学 民際学のすすめ

森住明弘 著
四六判/240ページ/本体1900円+税
2000年9月/978-4906640317

「民」の視点に立つと世界がよく見えてくる。市民が環境や社会との望ましい関係のあり方を探す学問・民際学は、長年の市民活動の経験から生み出されたホンモノの実学だ。市民活動の広げ方がよくわかる。

目次

はじめに

第1部 民際学ってどんな学問?
 第1章 私が民際学を創りたいと思った理由
  1 四つの課題に答えたい
  2 大学を駆け込み寺にしたい
  3 市民活動こそ研究活動と言いたい
  4 「授業離れ」を改善したい
  5 細分化しない学問を創りたい

 第2章 民際学の目的は関係性の創造
  1 真理に到達してこなかった人間系の学問
  2 なぜ真理は「逃げ水」になるのか
  3 二人の関係性を創造する民際学

 第3章 民際学はホンモノの実学をめざす
  1 実学と判定しにくい人間系の学問
  2 人間系の学問を実学にする道

 第4章 「学」び、「問」い、「対話」する
  1 勘や経験より理論が大切だろうか?
  2 体系化の仕方に基本的問題がある
  3 日常生活に浸透している理性モデルと平均モデル
  4 理性モデルの問題点
  5 理性モデルを採用してきた既存の学問
  6 成熟モデルを学ぶ

第2部 民際学を広げる
 第1章 暮らしのなかの日本語や法律用語に強くなる
  1 ホンモノの国語力
  2 実学が身を守る

 第2章 七つのキーワードで考える
  1 主観と客観-客観的だから公平なのか?
  2 科学(主義)と技術学(手段)──観察と実践の関係
  3 因果と縁・報-人vsモノの関係と、人vs人の関係は?
  4 矛盾する二つの裁量
  5 住民・市民運動とNGO・NPO
  6 能率と効率を区別しよう
  7 細分化すると、分析しても総合化できない

 第3章 科学・技術とうまくつきあう──自分vs自然の関係性の再編
  1 有害化学物質削減運動のジレンマ
  2 ダイオキシンを教材に人vsモノ(微量化学物質)の関係を振り返る
  3 市民活動は社会実験

 第4章 社会問題を解決する工夫──自分vs社会の関係性の再編
  1 社会実験としての「やみごみ」問題
  2 行政・住民それぞれの知恵

おわりに

書評・読者の声

書評オープン


 「民際学」という学問があるそうだ。提唱者は大阪大学基礎工学部の森住明弘助手。研究対象にしているのは、環境問題に対する住民運動の在り方、進め方である。
 三年前、厚生省が全国のごみ焼却炉の排ガスに含まれるダイオキシンの測定値を公表した。大阪・能勢町の焼却炉は数値が異常に高く、施設周辺の土も汚染されていることが判明して大騒ぎになったことがある。
 森住さんは、この時の報道が多くの人に「ダイオキシン=怖い物質=怖い状態」という誤解を与えてしまったという。確かにダイオキシンは怖いが、全国的に見れば、まだそれほど怖い状態ではない、というのが森住さんの考えである。
 我々に十分な知識がないと恐怖感が先行する。だから森住さんは「住民が自分たちの生活の中に専門知識を取り入れることが大切だ」と強調し、環境問題に対する住民運動も、問題解決を行政や専門家任せにしないという姿勢が大事だ、と訴える。
 以前、ある自治体の職員が、「運動の進め方によってはかえって環境への負担を増やす」と、リサイクル運動に注文をつけている話を紹介したところ、住民運動を否定するものだ、との指摘をいただいたことがある。
 同じ問題でも行政側と住民では、まったく違う捉え方をしている場合がある。「運動に多少のマイナス面があっても、運動を続けて問題意識を高めていくことの方が、はるかに意義がある」。これは森住さんの意見である。

『公明新聞』(2000年11月15日より)


 著者は、ごみ・リサイクル問題を中心に市民活動に協力してきた研究者。市民と学問を結ぶ「民際学」の必要性を説く。研究者側の問題点を指摘した上で、社会問題を市民自らが解決するための工夫や知恵を分かりやすく解説する。社会・経済問題などを市民の立場から読み解く「選書オルタ」の第一段。

『日本経済新聞』(2000年11月7日夕刊より)