地域自給のネットワーク〈有機農業選書5〉

井口隆史・桝潟俊子 編著
四六判/272ページ/本体価格2200円+税
2013年8月/ISBN-13: 978-4-86187-106-1
※第2876回 日本図書館協会選定図書

身近な資源を活かし、自給をベースにした循環型の有機農業や地産地消、加工を通して地域を元気にし、若者を呼び込んできた事例を豊富に紹介。
TPPに対抗できる本当に「強い農業」のあり方と地方自治体や大学の役割を提起する。


持続可能な自立した社会を創る

 

目次


序 章 改めて地域自給を考える 桝潟俊子
1 農山村における生存・生活基盤の危機
2 地域自給の現代的意義
3 原発被災地での農の営み
4 土と自然、人につながり、ネットワークのもとで生きる


第Ⅰ部 中山間地の地域自給の実践と成果


第1章 木次乳業を拠点とする流域自給圏の形成 井口隆史
1 生き字引・佐藤忠吉
2 小規模酪農複合経営の形成と有機農業への試行錯誤
――第一期(一九五三~七一年)
3 木次有機農業研究会の結成と風土に根ざした地域自給思想の確立
――第二期(一九七二~八一年)
4 産消提携運動の拡大・深化とモノカルチャー化への対応
――第三期(一九八二~九六年)
5 有機農業と流域自給・自立のシンボルとしての「食の杜」づくり
――第四期(一九九七~二〇一二年)
6 流域自給圏安定に向けての課題と新しい可能性


第2章 地域資源を活かした山村農業 相川陽一
1 山村に根ざした農のあり方
2 小規模・分散・自給・兼業の価値を見直す
3 弥栄の概要
4 有機農業の展開
5 山村自給農の継承に向けて
6 山村の自給農は持続可能な社会のモデル


第3章 資源循環型の地域づくり 谷口憲治
1 地域再生に向けた地域資源の活用
2 地域資源の発掘と産業化――江津(ごうつ)市桜江(さくらえ)町
3 地域資源の循環活用――奥出雲町
4 農産物の集荷・販売システム――JA雲南
5 地域資源を住民の判断で利用するシステムの構築


第Ⅱ部 自治体と有機農業


第4章 自給をベースとした有機農業――島根県吉賀町 福原圧史・井上憲一
1 過疎化が進むなかでの新しいスタート
2 旧柿木村の有機農業運動
3 吉賀町農業の目標と課題
4 自給的暮らしの豊かさを実現させる町づくり


第5章 島根県の有機農業推進施策 塩冶隆彦
1 環境保全型農業の推進
2 「除草剤を使わない米づくり」の推進
3 有機農業の推進
4 県民一体となった有機農業の推進


第Ⅲ部 地域に広がる生産者と消費者の新たな関係

第6章 生産者と消費者による学習・交流組織の形成と展開
――しまね合鴨水稲会  井上憲一・山岸主門
1 相互理解を深める
2 Uターンの有機農業生産者夫妻
3 しまね合鴨水稲会の形成と展開
4 今後の展開と課題


第7章 大学開放事業から生まれた生産者と消費者の連携 山岸主門・井上憲一
1 みのりの小道活動の位置づけ
2 みのりの小道の公開作業
3 援農の仕組みと意義
4 今後の展望と課題


終 章 これからの地域自給のあり方 井口隆史
1 地域自給と提携運動
2 地域自給と林野(山)の活用方向
3 経済成長から地域自給・自立へ


〈資料〉自給的農業としての有機農業――日本有機農業学会二〇一一年度 公開フォーラムin雲南


あとがき 山岸主門

 

著者プロフィール

井口隆史(いぐち・たかし)
1943年生まれ。島根大学名誉教授、「たべもの」の会代表。
主著=『中山間地域経営論』(共著、御茶の水書房、1995年)、『国際化時代と「地域農・林業」の再構築』(編著、J-FIC、2009年)。

桝潟俊子(ますがた・としこ)
1947年生まれ。淑徳大学コミュニティ政策学部教授。
主著=『企業社会と余暇――働き方の社会学』(学陽書房、1995年)、『有機農業運動と〈提携〉のネットワーク』(新曜社、2008年)。

相川陽一(あいかわ・よういち)
1977年生まれ。長野大学環境ツーリズム学部助教。
主著=『北総地域の水辺と台地』(共著、雄山閣、2011年)、主論文=「中山間地域での新規就農における市町村施策の意義と課題――島根県浜田市弥栄町の事例」『近畿中国四国農研農業経営研究』第23号、2012年。

谷口憲治(たにぐち・けんじ)
1947年生まれ。就実大学特任教授・島根大学名誉教授。
主著=『シイタケの経済学』(農林統計協会、1989年)、『中山間地域農村経営論』(農林統計出版、2009年)。

福原圧史(ふくはら・あつし)
1949年生まれ。NPO法人ゆうきびと代表。
主論文=「島根県吉賀町有機農業のとりくみ」(『農業と経済』2009年3月号)、「地域社会に根ざす有機農業――島根県柿木村の40年」(『土と健康』2011年、1・2月合併号)。

井上憲一(いのうえ・のりかず)
1971年生まれ。島根大学生物資源科学部准教授。
主著=『イノベーションと農業経営の発展』(共著、農林統計協会、2011年)、『中山間地域農村発展論』(共著、農林統計出版、2012年)。

塩冶隆彦(えんな・たかひこ)
1961年生まれ。島根県農林水産部農畜産振興課有機農業グループリーダー。

山岸主門(やまぎし・かずと)
1967年生まれ。島根大学生物資源科学部准教授。
主著=『園芸作における保全耕うん、管理生態系の維持』(共著、農林統計協会、1999年)。主論文=「カバークロップと景観形成」『農作業研究』40巻1号、2005年。

 

書評

 

書評オープン

 日「自給」とは、自らが農作物を作って食べる行為にとどまらない。そこには自然の原理の中に身を置く所作があり、人が長きにわたって積み上げてきた暮らしの哲学がある。近年、その理解が少しずつ高まってきたように感じる。
本書は、島根県内の豊富な事例を基に自給を多角的に紹介している。「たべもの」のあるべき姿を追求し続ける酪農企業たち、里山の草を利用した「ふだんぎの有機農業」、若い農林家が始めた自給運動、アイガモでつながる生産者と消費者など、当事者や仲間による記述はドラマチックで生々しい。
これらの中には、自給や有機農業が今のように理解される前に取り組まれたものも多い。今日にたどりつくまで難局と突破の連続であったり、日々の地道な活動が元になっていたり、無名からの出発だったりする。それ故に力強さがあり、ポスト近代化や地域社会の再構築への期待感も高まる。
そして、自給から自立、さらに自治への広がりが生まれていることに気付く。事例には、生産者と消費者をつなげる大学開放の試み、「健康と有機農業の里づくり」を重点施策に据えた村、「環境農業」の言葉を生み出し有機農業を推進する県行政も挙がっている。これらから、社会のフレームワークが個人や小地域のレベルを越えて形成されていることが分かる。(後略)

『日本農業新聞』(13年9月22日)書評より抜粋


「日本農業新聞」(13年9月22日)、「山陰中央新報」(13年9月23日)、「ガバナンス」(13年9月号)、「出版ニュース」(13年10月上旬号)、「ふぇみん」(13年10月5日号)、「オルタ」(13年11月号)、「農業と経済」(14年3月号)、「土と健康」(14年3月号)、「有機農業研究」(14年 Vol.6 No.1)などで紹介されました。