ゆらぐ親密圏とフェミニズム――グローバル時代のケア・労働・アイデンティティ

海妻径子
四六判/200ページ/本体1800円+税
2016年5月/ISBN 978-4-86187-113-9

子育てや介護の経験をとおして見えてきた言葉にしにくい思い。
フェミニズムの立場から、社会の矛盾や日常生活でのとまどいを平易に語る。

目次

第1章 不安定労働の時代を生きる
 1 はずれた「家族未来図」

 2「在宅ワーク」は「仕事と家庭の両立」か?
 3 ヘゲモニーは親密圏でつくられる

第2章 成り立たない「ライフコース」
 1「家族戦略」としての同居/別居
 2「マミー・トラック」から「初職トラック」へ
 3「お嫁さん願望」の功罪

第3章 地域社会と女性保守層
 1 私的扶養というモラル・マゾヒズム
 2「留守番」の政治学
 3「小泉純一郎好きおばちゃん」はミーハーなだけなのか?

第4章 融解する境界線
 1 子どもの「連れ去り」と「置き去り」の国際化
 2 父親の育児参加とホームレス
 3 拡散するセックスと感情労働

第5章 震災は親密圏を変えたのか

 1 ゆらぐ大地、ゆらぐ親密圏
 2「プライベートを他者に知られること」をめぐる雑感
 3 生の公共性

著者プロフィール

海妻径子(かいづま・けいこ)
1968年生まれ。
御茶ノ水女子大学大学院博士課程単位取得満期退学
博士(学術/Ph.D.of Gender Stunies)
現在、岩手大学人文社会学部准教授
専攻は、ジェンダー研究・男性史・家族論

書評

 

書評オープン


日常生活をフェミニズムの視点を通して観察し、考察した書。家族、地域や大切な人たちとのつながりはどのように変容し、私たちにどんな影響を及ぼすのかについてを注意深く分析している。
 多くの女性が不安定な労働で働き続ける現在、かつては描かれたはずの「未来図」はなくなった。自身も不安定な講師職を渡り歩いた経験を持つ筆者は、同じように不安定な就労と子育てを行ない、理想の「仕事と家庭の両立」とは程遠い現実を生きる女性たちと細いつながりで支え合う。

 東日本大震災以降は、家族の状況確認や介護家族の支援など個人情報を、注意はされつつも支援団体などの第三者に把握される機会が多くなった。「地域で支える」とは、プライベートと思っていたものが他者に拡散されることでもある。この問題と「ケアの社会化」はどう折り合いをつけるのか。私たちは「親密圏」をどう捉え直すのか。今後も著者の考察に興味が持たれる。

『社会新報』評者:梅林餃子(2016年7月20日)


「ピープルズプラン」(16年11月号)、「図書新聞」(16年11月号)、「女たちの21世紀」(16年9月号)、「ふぇみん」(16年7月25日)、「出版ニュース」(16年7月下旬号)、「オルタ」(16年4月号)、「社会新報」(16年7月20日号)などで紹介されました。