種子が消えれば、あなたも消える ――共有か独占か [3刷]

西川芳昭
四六判/224ページ/本体1800円+税/3刷
2017年9月/ISBN 978-4-86187-144-3

日本国際地域開発学会 2018年度学術賞

この4月に突然、食べ物の安定供給を支えてきた
主要農作物種子法が廃止された。 種子価格が上がる?品種の多様性が失われる?
農業と暮らしへの影響や食料主権について、
種屋に生まれた種子問題の第一人者がわかりやすく論じる。

 

目次

序 章 種子法の廃止が農の営みに与える影響
1 人は種子なしには生きられない
2 本書の目的と構成

第1章 種子法の制定背景と意義
1 種子法と種苗法
2 種子法制定の時代的背景と国際的枠組み
3 種子法に基づく都道府県の役割と実際的仕組み
4 主要穀物の生産と貿易・自給率

第2章 国際条約と種子システムにおける位置付け
1 種子を取り巻く三つの国際条約
2 種子システムという考え方

第3章 ジーンバンクと農家圃場の遺伝資源保全
1 遺伝資源の価値と保全の場所・方法
2 ジーンバンクにおける保全の実態と評価
3 農家圃場における保全の実態と評価
4 世界に開かれるとともに、世界に依存している日本の遺伝資源

第4章 農業・農村開発の考え方と農民の権利
1 開発に対する考え方の変遷と遺伝資源利用の利益配分
2 食料・農業植物遺伝資源条約における「農民の権利」の概念
3 日本における農民の権利に関する議論と多様な組織の活動

第5章 知的財産権の強化と多国籍企業による種子の囲い込み
1 種子市場の現状
2 育成者の権利
3 化学企業による種子支配
4 モンサントビジネスモデルの種子市場支配と種子法廃止の背景の共通点

第6章 品種と種子に関する日本の議論
1 品種の持つ意味
2 農家は品種や種子をどのように考えてきたか
3 品種供給の公的役割
4 品種開発を通して考える地域発展と人類の将来

第7章 種子法に支えられた素敵な品種たちの誕生物語
1 品種の集中とその問題
2 稲のドラマ
3 実需者と協力して育成する麦
4 大豆の自家採種の奨励

第8章 野菜の種子を守る自治体のユニークな取り組み
1 公的機関による種子/遺伝資源の地域循環
2 広島県農業ジーンバンクの自家採種農家の育成
3 長野県におけるF1を利用した在来品種の保全
4 農民を支える組織・制度・技術

第9章 海外の農民主体の品種育成と在来品種の保全
1 生物多様性と持続可能性
2 参加型品種育成(参加型育種)の考え方と事例
3 在来品種の種子を守る市民・農民の活動

第10章 種子を公共財として守るために
1 農業競争力の強化という幻想と二重の収奪
2 種子生産の現場の混乱
3 種子の公共性、公共種子の私有化の問題
4 持続可能な開発目標に果たす種子の役割
5 食料主権・国民主権が脅かされている

終 章 持続可能な世界のための多様な種子システム
1 災い転じて福となる可能性
2 種子需給システムのあり方を誰が決めるのか
3 産業的な農業を支える多様な農業・農の営み
4 アグロエコロジーという考え方と家族農業の再評価
5 食料主権の考え方を明確にする

あとがき

 

 

編著者プロフィール

西川芳昭(にしかわ よしあき)
1960年生まれ、京都大学農学部卒業、バーミンガム大学公共政策研究科修了。 博士(農学)。
現在、龍谷大学教授。著書に『奪われる種子・守られる種子』(創成社)など多数。

 

書評

 

書評オープン


今年4月、米、麦、大豆の種子の生産や普及を都道府県に義務付けてきた主要農作物種子法の廃止が決まった。本書は種子法の具体的な内容や種子に関する国際的な枠組み、法の下で開発・普及された品種の物語、在来品種の保全の動きなどを描き、公共財として種子を守るための論点を整理した。種屋に生まれた種子問題の第一人者の想いが貫かれている。

『毎日新聞』(2017年10月11日)

本書では種子法廃止による影響を歴史を踏まえて考察し、今後の農業を考える。(中略) 同法廃止により、道府県の種子事業の継続問題だけでなく、外資系企業の参入や寡占化などによって種子システムの多様性が奪われることが懸念される。(中略)種子は生命の源であり人間の尊厳であることを念頭に、持続可能なシステムの可能性について今一度考えていきたい。

『ふぇみん』(2017年11月15日号)


 (前略)本書は種子法にまつわる極めて多様な側面―種子法制定の背景や役割、国際条約、種子供給システム、遺伝資源問題、農民および育種者の権利、農民・住民参加型育の意義など―を取り扱った書である。すべてを紹介したいが紙幅の関係から断念せざるをえず、ここでは特に感じ入った点のみを列記したい。一つは、現代日本の行政機関の管理下の種子供給の姿を当然視している我々にとって、世界的に見れば農家の自家採取などが量的に重要な役割を果たしているとの指摘は自家採取の意義を物語るもので見落とせない。種子を、研究所の冷蔵庫などではなく圃場で保全するとの指摘は「種子の自然状態」での保全という点で魅力的だ。二つには、農民が遺伝子「素材」の伝承・提供者であることを踏まえ、育種者との折り合いをつけることが重要と言及している点だ。三つは「何を作り何を食べるかは自分で決める」との食料主権の旗を明快に掲げ、農民・住民参加型の育種と保全を追求していくことが枢要との指摘で、これはいくら強調してもしすぎることはない。種子法廃止は、災い転じて、それを作り出すチャンスとの指摘は興味深い。必ずしも種子問題に明るくない者にとって実に教わるところの多い良書である。

評者 飯澤理一郎 北海道大学名誉教授
『しんぶん赤旗』(2017年11月19日)

(前略)種子法廃止を受けての緊急出版ではあるが、研究の膨大な蓄積に基づき、民主主義の在り方まで視野に入れた、総合的議論の展開に成功していると言えよう。 本書には、種子法のもとでの地域に合った品種の誕生秘話や、自治体間の連携で種子を守り抜いた逸話など、具体的な物語も盛り込まれている。そこから浮かび上がるのは、公共財としての種子を守り育てる努力を重ねてきた自治体職員や農民たちの姿であり、特に「人類に共通の財産である作物の遺伝資源を管理する者」としての農民の存在である。 絶海の孤島での冷凍保存だけが種子を守る道ではない。地域の多様な種子を生かす農の営みが、地域内で遺伝資源が循環する「持続可能な社会」の仕組みの一つを与えてくれる。その意味で著者は「農民の権利」と、人権としての「食料主権」の重要性を強調する。 種子法廃止という聞きを、社会を変えるチャンスにできるか。そのための「種」が本書にはいっぱい詰まっている。

評者 雑誌『世界』編集長 清宮美稚子
『日本農業新聞』(2017年12月3日(日))


 「タネ屋の息子」であり、種子システムの専門研究者である著者が種子について一般の人向けにまとめた最新の本。種子法をめぐっても冒頭に詳述。廃止の影響を冷静に分析している。その一方で国主導の品種誘導と農家の主体性との関係を含め、品種と種子をめぐる広範な議論を整理しつつ、廃止を奇貨として多様な農家が参画できる新しい種子システムを構築することを提唱している。種子を生活文化という広い視点からとらえなおす好著。

農文協編『種子法廃止でどうなる?―種子と品種の歴史と未来―』(農文協ブックレット2017)

 タネ屋生まれの種子研究者が種子法廃止後に現場を再調査し書き下ろしたまさに珠玉の作品である。(中略)本書の肝は、種子法に支えられた素敵な品種たちの誕生物語の章である。ここでは物語性をもつ品種を取り上げ、種子を育む中で生まれた農家や行政関係者との関係が豊かに描かれ、その母体となったのが種子法であったことを紹介している。 この本は、世界を旅する種子に思いを馳せた著者の軌跡を読者に体験させ、人類の共通財産である種子を次世代に引き継ぎたいという著者の思いを体現している。今後の農と食の営みが持続的であるために、一人ひとりが種子とどうかかわっていくかにあたって考えるべき点を網羅した、私たちへの贈り物でもあると感じている。

『季刊地域』(No.32 2018年冬号)


 (前略)西川芳昭・著の『種子が消えればあなたも消える 共有か独占か』(コモンズ、1800円)もよく売れています。種屋に生まれ種子問題研究の第一人者である著者が、行政機関の管理下での種子供給(公共財としての種子を守る)と同時に、世界的な観点からも自家採種の重要性を述べます。現時点での種子法に関する、あらゆる問題を書き込んでいます。

『日本農業新聞』(2018年1月14日(日))

 農業の生物多様性である作物の在来品種が農業の近代化とともに急速に失われている。19世紀末に3千程度あったと言われる稲の品種が、今は400程度まで減っている。逆に言うと、狭い日本で400品種もの稲が作り続けられていることは特筆すべきであろう。その陰には、2018年4月に廃止される主要農作物種子法が存在した。(中略)本書では、生きている存在である種子の持つ魅力と可能性を紹介し、なぜ種子供給を市場に任せてはいけないのかを考えた。具体的には、作物は人間にその生存を委ねていること、作物の遺伝資源に関しては世界中の人が相互依存関係にあること、種子は旅をすること、の3点を世界の事例と法的枠組みを踏まえて詳しく説明した。(以下略)

『月刊NOSAI』(2018年2月号第70巻)


 本書の特徴は、種子法廃止によって国が農業の基本資材である種子を供給する責任を放棄することや多国籍企業による市場支配が強まりかねないことへの懸念を示すに留めず、読者に種子の世界を多角的に理解するよう促す姿勢であろう。本書の中盤では、そもそも種子はどのように生産され農民に届くのか、育種素材となる遺伝資源はどのような法体系で管理され、どのような権利関係が存在するかなどフォーマルなシステムの在り方を説明する。同時に、農民がみずから採種し、農民同士で種子を交換するローカル(インフォーマル)なシステムこそが人間の食を支え、遺伝資源を現在まで繋いできたことを強調する。そうであるからこそ、知的財産権の保護や遺伝資源の保全・活用においては、品種の開発者側の権利と農民が自由に種子を利用する権利のバランスをとることが必要不可欠なのである。(中略)種子に関する論点を網羅している本書は種子に関心を寄せてきた方にも今回新たに種子について考えたい方にも一読をお勧めする良書である。

『農業と経済』(2018年4月号)

『土と健康』(2017年12月号)、『月刊日本』(2018年2月増刊号)などで紹介されました。
『食べもの文化』(2018年9月号)で紹介されました。
『神戸新聞「日曜オピニオン」』(2018年7月22日)で紹介されました。
『有機農業研究』(2018年第10巻第1号)で紹介されました。