農と土のある暮らしを次世代へ――原発事故からの農村の再生〈有機農業選書7〉[2刷]

菅野正寿・原田直樹 編著
四六判/312ページ(カラー口絵4ページ)/本体2300円+税/2刷
2018年7月/ISBN 978-4-86187-151-1

原発事故から7年。福島関連の報道はめっきり減ったが、
日本人にとって忘れることはできない。
放射能汚染はどこまで回復したのか、 農業と地域はいまどうなっているのか。
農業者に寄り添い、継続して調査・研究しきた研究者たちの地に足がついた論稿。

 

目次


第Ⅰ部 福島の農の再生と地域の復興――原子力災害と向き合って
第1章 土の力と農のくらしが再生の道を拓く…菅野正寿
第2章 農地の放射性セシウム汚染と作物への影響…原田直樹
第3章 いま川と農業用水はどうなっているのか…吉川夏樹
第4章 いま里山はどうなっているか…金子信博
第5章 東和地区における農業復興の展開と構造
――集落・人・自治組織にみる山村農業の強さ…飯塚里恵子
第6章 竹林の再生に向けて…小松﨑将一
第7章 安心できる営農技術の組み立てを目指して…横山 正
第8
章 被災地大学が問われた「知」と「支援」のかたち 石井秀樹
 
第Ⅱ部 農家と科学者の出会いと協働を振り返って
第1章 農家と研究者の協働による調査の最前線に立って…武藤正敏
第2章 道の駅ふくしま東和で原発災害復興の1~2年を語る
座談会 〈司会〉菅野正寿 〈話者〉大野達弘、武藤正敏、菅野和泉、高槻英男
第3章 南相馬市小高区で有機稲作を続ける
――有機農業の仲間たちと日本有機農業学会の研究者に励まされて…根本洸一
第4章 試練を乗り越えて水田の作付けを広げる
――南相馬農地再生協議会の取り組み…奥村健郎
第5章 全村避難から農のある村づくりの再開へ
――飯舘村第12行政区の活動…長正増夫


第Ⅲ部 農家と共に歩んだ研究者・野中昌法
第1章 野中昌法の仕事の意義――農業復興へ福島の経験…中島紀一
第2章 「農」の視点、総合農学としての有機農業の必然性について…野中昌法
第3章 有機農業とトランスサイエンス:科学者と農家の役割…野中昌法
第4章 科学者の責任と倫理…野中昌法
第5章 〈書評〉『農と言える日本人――福島発・農業の復興へ』(コモンズ、2014年)…守友裕一

あとがき――これからも道をつな絆ぎましょう…菅野正寿

 

編著者プロフィール

菅野正寿(すげの・せいじゅ)
1958年、福島県生まれ。有機農業者。前・福島県有機農業ネットワーク代表。
水田3ha 雨よけトマト14a 野菜・雑穀2ha 農産加工(餅、おこわ、弁当)、農家民宿による複合経営。
共編著『放射能に克つ農の営み』(コモンズ、2012年)、『脱原発社会を創る30人の提言』(コモンズ、2011年)など。

原田直樹(はらだ・なおき)
1964年、埼玉県生まれ。新潟大学農学部教授、日本有機農業学会理事。共著『BISHAMONの軌跡Ⅱ——福島支援5年間の記録』(新潟日報事業社、2016年)『土壌微生物学』(朝倉書店、2018年)。

 

書評

 

書評オープン

福島第一原発事故は、福島の農家に多大な苦悩を与えたが、そのなかで次世代の農業者に農と土のある暮らしを残すため、有機農業を軸に復興を目指した農家と、対話を通して彼等に寄り添い、支えた科学者グループがいた。(中略)本書は、こうした農家と研究者の協働の記録である。

『出版ニュース』(2018年10月上旬号)


原発事故後の福島の自然について、知りたかったことがすべて書いてあった。もっと早くこうした本に出会っていたら、と思ったが、7年という歳月、福島の自然と放射能に向き合い続けた人びとの努力の結晶を目にしているのだ、とも感じた。そこに寄り添った土壌学者野中昌法は、有機農業の可能性を信じ、学者として論文を書くことよりも、福島の農家のサポートに徹することを貫いた。本書は昨年故人となった野中と歩みを共にした人びとによる論考集である。(中略)「農業と里山を守ってきてくれた先輩たちの思いをここで途絶えさせたくない」という信念、それこそが、事故直後も食べられるかわからない米を作り続けた農家の思いでもあっただろう。結果的に、それが貴重なデータを残していくきっかけになった。「アンダーコントロール」と政治家のうそぶいた言葉とは正反対の誠実さでもって、放射能にまみれた大地をコントロールした農家とそれに伴走した学者たちの物語である。

評者:寺尾紗穂(音楽家・エッセイスト)
『朝日新聞』(2018年9月22日)


本書を通じて農家が放射能とどう向き合うかという問いを改めて深く突き付けられた。この問いは、原発が全国に点在する日本で、多くの農家が直面する課題でもある。(中略)本書1部で紹介された調査結果は、放射能の作物への影響、川と農業用水などの、まさに農家にとって関心の高い地域独自の自然条件の観点から行われ、結果は絶えず農家に共有された。特筆すべきは放射能の測定と農家の安心を基本とした復興が目指されたことだ。こうした農家と研究者の協働は、先人らの営為と有機農家の技術と共鳴し「福島の奇跡」とされる早期の復興を起こした。この奇跡的復興の物語は、農と土のある暮らしを再考し次世代につなぐことが、農山村の未来を検討する上で決定的に大切なことを指し示す。

評者:松平尚也(農家ジャーナリスト)
『日本農業新聞』(2018年10月14日)


『朝日新聞(読書面)』(2018年9月22日)で紹介されました。
『ふぇみん』(2018年10月25日)で紹介されました。
『新潟日報』(2019年1月20日)で紹介されました。