|
◎書評
[評者]新妻昭夫
各地で森林が荒廃している。外材輸入の急増で国内材の価格が低落し、手入れする資金も人手も不足しているためだ。森林は誰のもので、管理責任は誰にあるのか。国有林や私有林など、森林には所有者がいて、おもに林業の場となってきた。しかし今日の環境問題の議論で、森林の機能や価値の多義性があきらかとなった。水源林、魚付き林、景観、多様な生物の生息場所、大気中の二酸化酸素の固定やレクリエーションの場など。
したがって森林の荒廃は、下流の都市に暮らす市民にとっても看過できない自分たちの問題。そういう認識を共有し、休日に山へ出かけ森の手入れを手伝う「森林ボランティア」が、二十年ほど前から各地で同時多発的に生まれた。それら市民グループのネットワーク組織として結成されたのが非営利活動法人(NPO)「森づくりフォーラム」であり、そのシンクタンク部門というべき「森づくり政策市民研究会」がまとめたのが本書だ。
本書の三分の一を費やして展開される二十六項目の政策提言は具体的だ。確かな現状分析と現場での実践から生まれたからだろう。たとえば、一九九八年度の林野行政の改革のさい、累積赤字のうち二兆八千億円が一般会計で処理されたことに疑問を呈する。その一方で、森を管理する人々へ国が一定の賃金を支払う「直接支払制度」を提案する。これは欧州連合(EU)諸国が山間地農民に対し実施している制度で、日本でも昨年春から中山間地の急傾斜農地を対象にして導入されている(当初予算額三百三十億円)。
本書の提言のうちもっとも注目すべきは、住民登録の「二重登録制度」。主要な生活の場である都市と、山仕事の場である山村の両方に住民登録し、地方税は分割納入したいという。市民の暮らしの意識が、ボランティア活動を通じて大きく変化しつつある証拠といえよう。
それにしても二兆八千億円と三百三十億円! どこでどう議論されて決定されたのか。勉強不足の評者は、新聞で読んだ記憶がない。(『朝日新聞』01年6月10日)
※ほかにも、『農林水産図書資料月報』2001年12月号、『リサイクル文化』66号、『週刊金曜日』2002年6月28日号、『林業経済』(02年12月、VOL.55)などで紹介
<目次>
はじめに
●第1章 広がる森林ボランティア
1
森林の再生と育成をめざして
2 森林ボランティアの誕生と特徴
3 森林ボランティア活動の任務と課題
4
多様に広がる森林ボランティア
●第2章 森林ボランティアからの「森林政策への提言」の思想
1 森林の荒廃とボランティアの登場
2
農山村を支える交流と連帯
3 森林と人との新しい関係を創る
4 私有・共有・総有
5 分離独立主義と予定調和論を超えて
6
新しい「多職の時代」を迎えて
●第3章 日本森林と林業のいま
1 「官」ゆえの国有林の孤立
2 「民」有林の苦境
3
崩壊した森林政策を超えて
●第4章 森林政策への提言
1 都市と農山村の一体的な改革をすすめるために
住民としての二重登録制度の創出
地方主権の強化と山村総合政策の推進
地域・流域ごとの自律的な森林管理
2
開かれた森林政策を求めて
すべての森林を統一的にとらえる総合的な森林政策を
日本的なゾーニングについて
市民参加による新しい「森林地図」の作製を
フォレスト・ミニマムの作製を
森林所有者による所有森林の「森林計画」の策定の義務化とその公開制度の創出を
国有材だけでなく、民有林にも「森林」官制度の創出を
国有林の管理に地域・流域の人びとの参加を
「地域森林委員会」「流域森林委員会」の創設を
森林オンブズマン制度の創設を
3
森と人との持続的な関係を創出するために
森で働く人びとへの「直接支払制度」の創造をめざして
森づくりへのさまざまな人びとの参加をめざして
森づくりをすすめる家づくりを
林道の自由な整備をすすめるために
森林の相続税制度の改革を
拡大造林時代の精神の惰性を克服するために
高性能機械に傾斜しすぎない技術の維持を
「管理放棄森林」への対策について
補助金システムの改革を
森林組合の改革について
地方分権の推進と林野庁の改革を
森林に関するすべての公的累積赤字の解消を
時代に適した「林業基本法」の制定を
4
森林所有者、森林に関する人びとや機関、地域・流域・都市の人びと、森林ボランティア、行政の新しい関係をつくりだすために
あとがき
|