有限会社コモンズ
代表者:大江孝子
創業年:1996年5月
主な出版分野:社会問題・環境問題・農・食・アジア・自治など
加盟団体:平和の棚の会・アジアの本の会・日本出版者協議会
販売ルート:トーハン、日販、大阪屋栗田、JRCなど取次各社の帳合。全国書店での販売。生活クラブ・ひこばえなどの共同購入。ホームページ、集会、メーリングリストによる直販。

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「なぜコモンズを社名にしたのか」大江正章(前代表)

 ぼくが出版社のコモンズを創設したのは1996年5月。会社は業種を問わず、社名がとても大切である。まして、ほぼ永遠の構造不況業種である出版業で、ロクに資金もない状態でのスタートだったから、社名にメッセージをこめることでアピールしようと考えた。新しい出版社でのテーマは環境・農・食・アジア・自治。ぼくは、それらを貫く概念は商品化の「私」でも管理の「公」でもなく、人びとと人びとが結び合う「共」であると確信していた。そのとき、自然にコモンズという言葉が浮かんだのだ。

普通の英和辞典でcommonsを引くと、「平民、下院、共同食卓」などの訳が出ているが多辺田政弘さんによれば、「共有地」や「入会権」など地域で生活していくなかでの共同性の意味がこめられ、そこには人びとの共通のルールがあるという。そして、彼はコモンズをもう少し広い意味でつかっている。すなわち「地域住民の共的管理(自治)による地域空間と地域資源の利用関係」である。それは、カネにまつわる部分だけが肥大化し、環境や地球の限界を顧みない、経済成長優先社会を変えていくためにとても重要な考え方で、ぼくが新しく創る出版社の方向とまさに一致していた。

 たくさんの仲間たちと、地域と地球の環境を守り育てながら、それを共有財産としていく開かれた場が出版社コモンズである。県民が豊かな自然環境と社会漢検のなかで生きられることの保証がコモンズとしての自治体だろう。そして、ぼくの活動は出版を中心としながら、仲間との米づくりや東ティモールの農民がつくる有機コーヒーのフェアトレードにも広がっている。それらはすべて、ぼくにとってはコモンズのささやかな実践である。

(2004年7月1日)

「コモンズに期待する」村井吉敬

大江さんが苦労してつくった『コモンズの海-交流の道、共有の力』(中村尚司・鶴見良行編著、学陽書房)という本がある。「コモンズ」という言葉に惹かれた。私は「みんなのもの」というような自己解釈をしている。本当は共同体の利用権のようなものを称しているのだろうが、「みんなのもの」と拡大解釈したほうが将来がある。ただし、狭い排他的な共同体での「みんなのもの」では広がりがない。

これからの本づくりは、テーマも編集作業も広い意味での「コモンズ」でなければならない。本づくりだけの話ではない。この地球は実は「みんなのもの」という観念の確立がないと、人類は滅ぶ。地球も、そこに生きとし生けるものみんなが滅ぶ。コモンズは重大な使命を与えられた本屋さんなのである。
このところ私は、ニューギニア島西部のイリアン・ジャヤ(西パプア)に、かなり頻繁に出かけている。住民たちは小さな浜辺の村で珊瑚礁の魚を獲り、サゴヤシを育て、野豚を狩猟している。珊瑚の海や背後の森を大事にしないと、生きてはいけない。彼らはコモンズのなかに暮らしている。そして、地球上のおそらく多数の人びとは、本来的にコモンズのなかに生きている。異常なともいえる近代化、工業化、情報化のなかにある私たちは、こうした世界の多数派のコモンズが見えなくなってきている。

「コモンズ」は、こうした当たり前に自然の恩恵を受けてきた人びとの味方になってほしい。大江さんは、いまどきに珍しいほど注文の多い編集者である。それを大事にしてほしい。コモンズで良い本をいっしょにつくっていきたいものである。良い本が売れるとは限らないが、売れればいいというものではない。ともにがんばりましょう。

「生きる希望を築く未来への発信基地」中村尚司

 たちの社会には、多くの難問が山積しています。東西対立の冷たい戦争が背景に退いたとはいえ、南北問題、環境問題、民族問題、ジェンダー問題などと列記するだけでも頭が痛くなります。長い間、政治や経済のあり方を決めてきた資本主義や社会主義にも、制度疲労が色濃くなってきました。
時はあたかも世紀末、身のまわりには閉塞状況という流行語が飛び交っています。
しかし、深い霧の向こうに眼を凝らせば、かすかな明りが見えます。明日は決して暗くはありません。地表にはまだ姿を現していいませんが、地下茎が養う筍のように、次の時代を切り開く若々しい力が育ちはじめているからです。地下茎は、国家や民族の厚い壁を越境し、これまで分断されていた人びとを結びつつあります。
人と人とを結ぶ場が、21世紀における私たちのコモンズです。だれもが、どこかで、コモンズを求めています。
それは、知り合い同士の、身内だけの交流の場ではありません。そんな狭苦しい世間は、新しい時代にふさわしくありません。見知らぬ世界の見知らぬ人びとが出会い、力を合わせることのできるコモンズを整備しましょう。やさしくはないが、魅力的な事業です。
現代社会の難問に格闘し、これまで見えなかった世界に形を与える仕事こそ、コモンズ社の役割です。コモンズ社は、小さくてもよいと思います。しかし、各部分が全体となり、辺境が中心となる世界への回路を創る場となるでしょう。
人びとが生きる希望を築く未来への発信基地、それが明日のコモンズ社です。

「約束の地『コモンズ』」多辺田政弘

 民生活センターの調査研究部時代に農産漁村を歩きながら、守田志郎の著作に出会った。ムラの生活、モノゴトの決め方、農の世界の奥行きに、私は目を開かされた。
縁あって沖縄国際大学に勤めることになったが、私の前任者だった玉野井芳郎先生の遺稿が「コモンズとしての海」であった。沖縄の地先の海と人びとのかかわりの豊かさを「コモンズの海」ととらえたその短い講演記録が、私の沖縄を見る眼を決定づけた。そこには、守田志郎に通じるやさしい豊かな視点があった。
それ以来、私のなかで「コモンズ」は、あのガレット・ハーディンの「コモンズの悲劇」とはまったく逆のベクトルで未来に開かれた「約束の地」として生き続けている。ハーディンの「コモンズの悲劇」は、実は「コモンズの欠如の悲劇」だったのだ。
「共同の力」を失うと「コモンズの悲劇」が始まる。環境と地域を守り育てる「地方分権」とは「コモンズの再生」であると私は思っている。
学陽書房で「コモンズ」の視点を育ててきた編集者・大江正章さんが<コモンズ>として再出発することが、うれしい。