コモンズとしての地域空間──共用の住まいづくりをめざして

平竹耕三 著
四六判/224ページ/本体2500円+税
2002年4月/ISBN 978-4906640515

土地は資産のためにではなく、豊かに暮らすためにある。土地を個人所有とせず、ともに利用してコミュニティを築いた複数の事例の調査から、「現代の長屋づくり」はじめ、今後の豊かな住まい方を提起。

目次

はじめに

第一章 日本社会のゆがみと土地問題
 1 豊かさを実感できない社会
 2 土地問題の変遷と規制緩和
 3 土地の所有・利用・脱市場化
 4 地域研究と民際学

第二章 武家屋敷長屋の地域所有−松阪市「御城番屋敷」
 1 御城番屋敷の由来と苗秀社の歴史
 2 住み心地と観光化
 3 地域主体としての苗秀社

第三章 都心部における土地の地域所有−京都市東山区祇園町南側
 1 祇園の成り立ち
 2 土地の所有と利用
 3 住民の意識
 4 生活の安定と町なみの保存

第四章 現代の長屋づくり−京都市西京区「ユーコート」
 1 ユーコートの思想と建設のプロセス
 2 コミュニティとしてのユーコート
 3 土地所有と土地利用

第五章 コモンズとしての地域空間
 1 豊かな地域社会をつくる
 2 公有地の拡大
 3 NPOが織りなす地域空間

あとがき

書評・投稿

書評オープン


 著者は提唱する。土地を資産価値ではなく、利用価値としてとらえよう。居住の場を脱市場化し、個人個人の所有や管理に分割しないで地域住民による共的管理にしていこう。
 実践例として紹介されるのは、三重県松坂の武家屋敷長屋、京都の祇園町南側・京都のコーポラティブ住宅「ユーコート」。
「豊かに生きる」ことの基盤は、安定し、自立した地域社会の中で住まう場を形成していくこと。文章がやや硬いのが残念だが、とても共感できた。

『ふぇみん』(2002年5月25日号より)


〈土地共有、祇園の町並み保全〉
──京都市職員の平竹さん、調査を本に
──まちづくりの参考に

 住宅行政に携わってきた京都市の職員が、「土地共有」の形態を残す東山区の祇園地域などで聞き取り調査した結果を本にまとめ、このほど「コモンズ(みんなのもの)としての地域空間」として出版した。土地共有が、共同体やまちなみの保全に重要な役割を果たすと強調している。
〔本文〕
 市産業観光局スーパーテクノシティ推進室副室長の平竹耕三さん(43)で、十年ほど前、当時の住宅局に四年間、配属されていた時にまちづくりに関心を持ったという。その後、独自に現地を歩き、聞き取り調査などをして本にまとめた。
 祇園町南側地域では、財団法人の京都八坂女紅場学園が大部分の土地を所有しており、これによってビル建設が規制され、木造のまちなみが保全されたとしている。また、地代が安く、昔なじみの人が住み続けることができたため、地域コミュニティーが残ったと説明する。
 このほか、住民自治の独自のルールを持っている西京区のマンション「ユーコート」や、住民を株主とする株式会社が土地を所有する三重県松阪市の「御城番屋敷」の二カ所の実例も挙げている。
 平竹さんは「過度の土地信仰がバブル経済を生み出し、豊かさを実感できない社会を作ってきた。土地を公共のものとしてとらえ直すことが必要ではないか。今後のまちづくりの参考になれば」と話している。

『京都新聞』(2002年6月2日より)


そのほか、『日経アーキテクチャー』(2002年5月27日号)、『ガバナンス』(02年6月号)、『毎日新聞京都版』(2002年6月19日付)、『京都新聞』(10年10月19日)などでも紹介されました。

投稿オープン


■土地利用 住民が町づくりできる環境を/平竹耕三 京都市職員

 伝統的な様式の町家が数多く残り、京都らしい風情を醸し出す祇園。「戦後社会は倫理を含めて土地問題によって崩壊する」と、土地の公有化を強く主張していた作家の故司馬遼太郎氏が、晩年に強い関心を持っていたのが、この祇園における土地の「地域所有」のあり方だった。
私は98年ごろから「祇園町南側」で、土地の所有形態がまちづくりにどのような影響を与えるかを調べるため、聞き取り調査を実施してきた。
 ここの土地のほとんどは、舞妓(まいこ)さんや芸妓(げいこ)さんの学校である学校法人・八坂(やさか)女紅場(にょこうば)学園の所有である。200区画ほどに分割され、お茶屋、飲食店、住宅などに賃貸されている。
注目すべきは、学園と借り主との間で由緒ある町並みを守る合意書を結び、自主ルールにそって建物の外観デザインを決めてきた点だ。しかも、こうした取り組みを続けるため、学園側は地代を固定資産税の額を少し超える水準に抑え、利益を二の次にした。今日、京都を感じさせる祇園のたたずまいが残るのは、学園と借り主がともども努力してきたおかげなのだ。
こうした取り組みで、町並みの保存→自分たちの町に対する住民の高い評価→住民による住み続けようという意欲と建物の維持改修の努力→町並みのいっそうの向上と地域の活性化、という好循環が生まれた。
この9月には、伝統的景観保全地区をつくるため、住民の自主的な防火活動が充実していることなどを条件に、都心部で木造の京町家の新改築を認める条例案が、京都市議会に提案された。祇園が地区指定の第1号に想定されている。住民の自主的な取り組みが、京都市を動かした形だ。
 三重県松阪市では江戸時代末期の武家屋敷長屋「御城(ごじょう)番屋敷(ばんやしき)」が築140年を迎えてなお、れっきとした住宅として使われている。城番武士の子孫たちが会社を作り、住み続けてきた。一時はマンションにするとの話もあったが、大切な祖先の遺産を歴史のたまものとして守りきった。いまや松阪市の顔というべき存在になっている。
 京都市西京区のコーポラティブハウス「ユーコート」は、「扉の外も私たちの住まい」をモットーにしている。住宅を建てたい人が集まり、知恵を持ち寄って作った集合住宅だが、集会所を地域の住民にも開放したり、一緒にサークルを作ったりして、「集まって住むことが楽しい」環境づくりを進めている。
 こうした例を聞き取り調査する中で痛感したのは、土地や空間のあり方や利用方法を、当事者である住民が自分たちの責任で決め、実現することの意義だ。土地利用が適正でないため、中心市街地が衰退する例が各地で起きている。今後ますます少子高齢化が進み、活力が失われていくであろう日本の社会にあって、地域を活性化するのに必要なのは、こうした前向きな住民のパワーではないか。
さらに、住民主体のまちづくりを後押しする法律も必要だ。例えば、空き地を優先して利用できる権利を住民に認める、などである。そうした法整備が検討される時期にきているとひしひしと感じている。

「私の視点」(『朝日新聞』02年10月2日)に、著者の平竹耕三さんが投稿されたものです。