有機農業はこうして広がったーー人から地域へ、地域から自治体へ

谷口吉光 編著四六判|272ページ|ISBN:978-4-86187-171-9|本体価格2000円+税
23228日刊行
有機農業のまちはどのように生まれたのか?

千葉県いすみ市の有機学校給食のように、有機農業を政策に取り入れる市町村が増えている。このような取り組みはどのように広がったのか?本書は「有機農業の社会化」という視点から、いすみ市、岐阜県白川町、山形県高畠町、大分県臼杵市という先進事例の調査をもとに、有機農業が「人から地域へ、地域から自治体へ」と広がるプロセスを明らかにする。「日本では有機農業が広がっていない」という通説をくつがえす注目の書。

目次


第Ⅰ部 地域に広がる有機農業

第1章 有機農業の広がりと「有機農業の社会化」/谷口吉光
1「有機農業は広がっていない」という主張の根拠
2 有機農業を社会現象として見る
3 有機農業が地方自治体に広がりつつある理由
4 有機農業の「産業化」と「社会化」

第2章 千葉県いすみ市●有機農業、給食、生物多様性が共鳴する「自然と共生する里づくり」/谷口吉光
1 前史としてのカウンターカルチャーと自然保護活動
2 有機農業推進を決めた経緯
3 なぜ短期間に有機農業の技術が確立できたのか
4 なぜ有機米給食が実現できたのか
5 その後の展開
6 まとめ――農、食、環境が共鳴する地域づくり

第3章 岐阜県白川町●中山間地×有機農業で生まれた「地域の力」/吉野隆子
1 第一期 有機農業の始まり
2 第二期 ゆうきハートネット結成
3 第三期 新規就農者の受け入れ開始
4 第四期 未来を見据えた世代交代
5 三つの転換点
6 有機給食の広がり
7 地域とのつながりを大切に


第4章 山形県高畠町●五〇年の農民運動が築いた自主・自立の共同体/谷口吉光
1 高畠町有機農業研究会の時代
2 有機農業運動多様化の時代
3 地域における有機農業の広がりと課題
4 自立を求める農民運動は次世代に受け継がれるのか
5 まとめ――農民運動が築いた自主・自立の共同体

コラム 有機米作りに取り組む「コモンズの喜劇」/中川恵

第5章 大分県臼杵市●有機の里づくり――うすきの「食」と「農」を豊かに/藤田正雄
1 臼杵市の農業振興政策
2 学校給食への有機農産物の導入
3 自治体主導で有機農業を推進
4 有機農業の五つの推進施策
5 地域資源を活かした産業振興
6 有機農業推進政策がもたらしたもの
7 まとめ――臼杵市の事例から何を学ぶのか

コラム 地元農産物の品質向上に貢献――臼杵市土づくりセンター/藤田正雄

第6章 座談会1 調査から見えてきたこと/谷口吉光・吉野隆子・藤田正雄・西川芳昭・長谷川浩

コラム 地域農協が環境保全米を普及した――JAみやぎ登米の事例/谷川彩月

第Ⅱ部 「有機農業の社会化」の展開に向けて

第7章 「有機農業の社会化」とみどりの食料システム戦略/谷口吉光
1 みどり戦略の概要
2 みどり戦略の問題点

第8章 「有機農業の社会化」を持続させるために/西川芳昭
1 「有機農業の広がり」と「政策」との間の緊張感の必要性
2 「社会化」における主体者の確認
3 開発学の視点からの考察――主体者論の普遍化と個別性
4 今後の展開に向けて多様性と自律性を大切にする

第9章 社会の有機農業化――持続可能な社会のつくり方/長谷川浩
1 農業・農村がもつ非経済的価値の重要性
2 食料危機、環境危機がいつ起こっても不思議ではない
3 「社会の有機農業化」とは――有機農業を生活、社会、教育の柱に据える
4 命がかかっていれば社会は変えられる

第10章 座談会2 「社会化」によって広がる有機農業/谷口吉光・吉野隆子・藤田正雄・西川芳昭・長谷川浩

 

著者プロフィール

谷口吉光(たにぐち・よしみつ)
1956年生まれ。秋田県立大学地域連携・研究推進センター教授。専門:環境社会学、食と農の社会学。主著=『「地域の食」を守り育てる――秋田発 地産地消運動の20年』(無明舎出版、2017年)。編著=『食と農の社会学――生命と地域の視点から』(ミネルヴァ書房、2014年)。共著=『有機農業大全――持続可能な農の技術と思想』(コモンズ、2019年)。

西川芳昭(にしかわ・よしあき)
1960年生まれ。龍谷大学経済学部教授。専門:開発社会学、民際学。主著=『食と農の知識論——種子から食卓を繋ぐ環世界をめぐって』(東信堂、2021年)。編著=『人新世の開発原論・農学原論――内発的発展とアグロエコロジー』(農林統計出版、2022年)、『タネとヒト――生物文化多様性の視点から』(農山漁村文化協会、2022年)。

長谷川浩(はせがわ・ひろし)
1960年生まれ。母なる地球を守ろう研究所理事長、福島県有機農業ネットワーク理事、縮小社会研究会理事。専門:有機農業学。主著=『食べものとエネルギーの自産自消——3.11後の持続可能な生き方』(コモンズ、2013年)。編著=『放射能に克つ農の営み――ふくしまから希望の復興へ』(コモンズ、2012年)。主論文=「有機食材で農薬をデトックスできる」『土と健康』492号(日本有機農業研究会、2019年)。

藤田正雄(ふじた・まさお)
1954年生まれ。NPO法人有機農業参入促進協議会理事・事務局長。専門:農耕地の土壌動物の多様性と機能、有機農業への参入支援。共著=『有機農業の技術と考え方』(コモンズ、2010年)、『有機農業をはじめよう!——研修から営農開始まで』(コモンズ、2019年)、『有機農業大全――持続可能な農の技術と思想』(コモンズ、2019年)。

吉野隆子(よしの・たかこ)
オーガニックファーマーズ名古屋代表、あいち有機農業推進ネットワーク副代表、NPO法人全国有機農業推進協議会理事、家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン理事。専門:有機農業への参入支援。編著=『有機農業でつながり、地域に寄り添って暮らす――岐阜県白川町ゆうきハートネットの歩み』(筑波書房、2021年)。共著=『有機農業をはじめよう!――研修から営農開始まで』(コモンズ、2019年)、『半農半X――これまで・これから』(創森社、2021年)。

谷川彩月(たにかわ・さつき)コラム
1990年生まれ。人間環境大学環境科学部助教。博士(社会学)。専門:環境社会学、農村社会学。主著=『なぜ環境保全米をつくるのか――環境配慮型農法が普及するための社会的条件』(新泉社、2021年)。主論文=「慣行農家による減農薬栽培の導入プロセス――宮城県登米市での『環境保全米』生産を事例として」『環境社会学研究』第23号(有斐閣、2017年)。

中川恵(なかがわ・めぐみ)コラム
1987年生まれ。山形県立米沢女子短期大学准教授。専門:社会学。共著=『社会運動の現在――市民社会の声』(有斐閣、2020年)。主論文=「農家経営のもとでの有機農業の面的展開――山形県高畠町露藤集落『おきたま興農舎』の事例から」『年報村落社会研究 第55集 小農の復権』(農山漁村文化協会、2019年)。

 

 

書評オープン


 『秋田魁新報』(23年3月25日)、『クーヨン』(23年5月号)、有機農業参入促進協議会WEB、『ガバナンス』(23年4月号)、農業共済新聞(23年4月12日)、『消費者リポート』(23年4月20日)、『日本農業新聞』(23年5月7日)、『土と健康』(23年5・6月号)で紹介されました。