沖縄・素潜り漁師の社会誌——サンゴ礁資源利用と島嶼コミュニティの生存基盤

高橋そよ
四六版/276(カラー口絵8)ページ/本体3700円+税
ISBN 978-4-86187-149-8

サンゴ礁を生業の場とする人びとの生活戦略や漁撈技術、
資源利用と自然認識・民俗知識、サンゴ礁の資源利用を成り立たせている
島嶼コミュニティと取引慣行に基づく「情」の経済などを、
素潜り漁師の小舟に同乗しての参与観察をはじめ
約20年間のフィールドワークから明らかにした労作。

 

目次

序章 本書の目的と構成
1 本書の目的と視座
2 沖縄のサンゴ礁自然利用をめぐる研究動向
3 調査方法
4 本書の構成

第1章 調査地の概要
1 調査地域の自然と社会
2 水産資源の商品化からみた島の暮らしの変遷――近代から現代へ
3 グローバル市場の周縁に生きる島嶼経済

第2章 素潜り漁師の自然認識と民俗分類
1 素潜り漁師の自然認識
2 漁撈活動を支える民俗知識
3 魚の名称と命名法
4 漁撈空間の認識――漁場をめぐる「地図」に何が描かれるのか?
5 自然と共に生きる知識

第3章 素潜り漁師の漁撈活動――民俗知識とその運用
1 潜水による漁法の特徴
2 素潜り漁の漁撈活動とサンゴ礁地形の利用

第4章 魚が紡ぐ島嶼コミュニティ――「情」の経済と生活戦略
1 魚が紡ぐコミュニティ
2 「ウキジュ」という経済慣行
3 漁師と仲買いの紐帯
4 ツムカギと社会関係の維持
5 ウキジュと「情」の経済

第5章 見えない自然を生きる――自然観と社会的モラリティ
1 民俗方位ヒューイと方忌み
2 マジムヌとカエルガマの儀礼
3 聖なる空間と漁場利用

終 章 島嶼コミュニティの生存基盤の理解にむけて
1 まとめに代えて
2 今後の課題と展望

あとがき
初出一覧
参考文献
附 表 魚の方名(沖縄・伊良部島佐良浜地区)
索 引

 

編著者プロフィール

高橋そよ
1976年生まれ、博士(人間・環境学)、専門:生態人類学。琉球大学研究推進機構研究企画室リサーチ・アドミニストレーター。
島をフィールドとした人類学的研究に憧れて、北海道から琉球大学に入学し、伊良部島の素潜り漁師さんに弟子入りをする。京都大学大学院人間・環境学研究科修了後、米国・東西センターの客員研究員、野生動植物の国際取引をモニタリングする国際NGOトラフィックのプログラムオフィサーなどを経て、現職。現在は琉球大学に勤務するかたわら、琉球列島各地で人とサンゴ礁との関わりをめぐる自然誌の記録に取り組んでいる。
共著=「『楽園』の島シアミル」宮内泰介・藤林泰編著『カツオとかつお節の同時代史――ヒトは南へ、モノは北へ』(コモンズ、2004年)。 主論文=「沖縄・佐良浜における素潜り漁師の漁場認識――漁場をめぐる「地図」を手がかりとして」(『エコソフィア』第14号、2004年)、「魚名からみる自然認識――沖縄・伊良部島における素潜り漁師の漁撈活動を事例に」(『地域研究』第13号、2014年)など。

 

書評

 

書評オープン

佐良浜で素潜り漁を行う池村武信さん(79)の家に住まわせてもらい、“弟子入り”して毎日一緒に海に潜った。(中略)過ごすうちに、漁師たちが生態を熟知して魚種うぃ名付け、地形や魚種に応じて何種類もの漁法を使い分けることが見えてきた。水揚げされた魚は、高値を競うセリではなく、全て買い取る「ウキジュ」と呼ばれる関係で多様な魚種を活用していた。「この年に生まれた人はあの場所で漁をしてはいけない」といった“タブー”は結果的に漁場を休ませ、多くの人が漁場を利用できる仕組みに見えた。そこには自然を鋭く丁寧に見抜き、人も自然も持続可能に暮らす知恵と技術があった。「島の暮らしが人の生き方や経済、社会の在り方を問い直してくれる」と力を込める。

『琉球新報』2018年4月27日(金)


(前略)意欲と研究方法を携えた著者は佐良浜に住み、漁師たちから風、波、潮、複雑なサンゴ礁の地形、魚の習性など、自然に関した知識や、魚の名前(方言名も)漁の仕方など、人が自然に向かうときの方法などを聞き取った、そして自らもスーニガマ(沖縄では一般的にサバニとよばれていて、積載量が3トン未満の舟)に乗って潜ったり、漁師たちの一挙一動を克明に記録した。それから獲った魚やイカなど漁獲物を仲買人に売るシステム(ウキジュと呼ばれている)を細かく調べ、佐良浜社会における契約や人間関係における「ツムカギ」を調べた。さらに佐良浜で年間を通して行われる祭りや祈りの場に参加して、神役の女性たちや彼女らをさせる男性たちの役割を描き出した。読んでいると、著者の好奇心、研究手法、文章力にグイグイ引かれていった。

『宮古毎日新聞』2018年5月30日


これまでに一漁師が生業(なりわい)とする世界の自然生態的状況から、漁師を包む漁村社会の場所性と精神世界まで踏み込んで、これほどまで総合的に描いた論考があっただろうか。著者の構想する世界の大きさと深み、調査地への愛情と意欲、研究者としての分析力の鋭さが随所に感じられる。漁師の本質は海のハンター。その資質を活(い)かした漁民社会が場所の個性と力を生みだす「熱い」書である。  本書は、宮古諸島伊良部島の佐良浜地区に、2000年以来十数年間寄り添った著者が、漁師の漁撈(ぎょろう)技術と民俗知を記載し、漁村の社会経済活動を活写し、分析した研究書である。極めて特化した漁民社会の描写であるが、読み進むうちに著者の筆力もあり、沖縄の島社会、八重干瀬というサンゴ礁の海に生きる漁師たちの民俗文化や自然観、魚の生態を読み取る漁師を描写する著者の手法と視座に魅了され、島の将来を一緒に考える自分に気がつく。これが本書の魅力である。

評者:堀信行(首都大学東京名誉教授)
『琉球新報』(2018年10月28日)


漁師は、魚を獲って、それを売って生計を立てている。その営みは、いたってシンプルにみえる。しかし、本書を一読すれば了解されるが、それは決して単純なものではなかった。本書は、通算1年10カ月もの間、宮古諸島の伊良部島・佐良浜の漁家に住み込み、素潜り漁師に弟子入りして、その漁撈活動と漁獲物の販売を中心に、漁師という生業を、島社会のなかに位置づけて叙述した得難い「社会誌」である。(中略) 本書は、漁師が資源を利用する際に顕在化する生活戦略や社会経済的な活動、自然観を含めた多様な側面から、漁師の営みを描き、サンゴ礁域の漁撈研究に新たな扉をひらいたといえよう。豊富なカラー口絵も備える本書は、人と自然の関係、農山漁村のコミュニティのあり方を考えるうえで、大いに参考になると確信する。

評者:渡久地 健(琉球大学国際地域創造学部准教授)
『図書新聞』(2018年11月3日)

 

『離島経済新聞-ritokei』(2019年春号 No.27)で紹介されました。