カツオとかつお節の同時代史 ──ヒトは南へ、モノは北へ

藤林泰・宮内泰介編著
A5判上製/320ページ/本体2200円+税
2004年11月/ISBN 978-4861870867

※第2492回 日本図書館協会選定図書

カツオ・かつお節をめぐる約1世紀にわたる沖縄・東南アジア・太平洋の島々の濃密なつながりを、丹念なフィールドワークと膨大な資料から浮かび上がらせた労作。身近な食材からグローバリゼーションの広がりが見えてくる

目次

序章  北上するカツオ、南進する人びと―かつお節の向こうに私たちが見たかったもの――宮内泰介

第Ⅰ部 私たちの暮らしとかつお節
第1章 カツオ・かつお節産業の現在――宮内泰介・酒井純
第2章 削りパックの向こうに見えたもの――白蓋 由喜
第3章 「便利」な生活を支える麺つゆ――石川 清

第Ⅱ部 北上するカツオ
第1章 カツオが変える漁村社会――北窓 時男
第2章 インドネシア・カツオ往来記――藤林 泰
第3章 モルディブのかつお節――酒井 純
第4章 ソロモン諸島へ進出した日本企業――宮内泰介・雀部真理
第5章 外国人が支えるカツオ漁とかつお節製造――北澤 謙

第Ⅲ部 南進する人びと
第1章 カツオの海で戦があった――藤林 泰
第2章 沖縄漁民たちの南洋――宮内 泰介
第3章 「楽園」の島シアミル――高橋 そよ

第Ⅳ部 カツオから見える地域社会
第1章 かつお節と薪―海と森を結ぶもの――北村也寸志
第2章 餌屋の世界――秋本 徹
第3章 カツオに生きる海人――見目佳寿子
第4章 小さなかつお節店の大きな挑戦――赤嶺 淳
第5章 大航海時代を生き抜く漁民たち――北窓 時男

終章  市民調査研究で広がる世界―報告を終えて――藤林 泰
カツオとかつお節に関する年表

編著者プロフィール

藤林泰(ふじばやし・やすし)
埼玉大学経済学部。主著『ODAをどう変えればいいのか』(コモンズ、共編著)、『ゆたかな森と海の暮らし』(岩崎書店、共編著)など。

宮内泰介(みやうち・たいすけ)
北海道大学大学院文学研究科。主著『自分で調べる技術』(岩波アクティブ新書)、『ヤシの実のアジア学』(コモンズ、共編著)など。

書評

 

書評オープン


 鶴見さんの成果を過去のものと言ってしまうにはあまりに生々しすぎるが、鶴見さんが亡くなられてから始まった「カツかつ研」は、字義通り正統に「鶴見式モノ研究」を引き継ぐものだ。鶴見さんに対する思慕の念、教えられたことの実践、もし鶴見さんなら何を見て、どう考えられたかと、執筆者たちは常にそんなことを意識しながら調査にあたったのではないだろうか。
 今回のモノは、たまたまカツオである。序章で述べられているように、予備調査の結果「かつお節を追いかけることで、近代日本の動きが見えてくるのではないか。かつお節を見ることで、私たちの生活の背景に何が広がっているのかが見えてくるのではないか」、ということでカツオとかつお節の研究が始まった。

『カツオの海で戦いがあった』、『大航海時代を生き抜く漁民たち』の二篇はカツオの歴史・地理を大きなスケールで語り、新しい視点を展開している。『カツオに生きる海人』は活きのいいルポルタージュだ。カツオというモノに筆者の愛着が感じられる。やはり、モノをして物語らせるのが素直でいい。読者はそこから市民の目を自覚することができる。

 次々にモノ研究を続けてもらいたい。鶴見式を乗り越え、新たなモノの見方、次なる世界が展開するだろう。
 モノにこだわるのは、複雑な社会背景を単眼で見ることだ。それは物事を単純化することではなく、小さなモノの中にも宇宙があるということ。この場合、カツオは望遠鏡ですね。

(『月刊オルタ』05年3月号)


「かつお節は日本の近代化の歴史と密接に関係しているんです」/そう指摘するのは北海道大学の宮内泰介教授(環境社会学)。仲間と研究会を作り、かつお節を巡るヒトやモノの流れを調べ「カツオとかつお節の同時代史」(コモンズ)という本にまとめた。御井やうちさんたちによると、かつお節は明治以降、都市の中産階級が増えるに伴い、その需要が増えた食品だ。都市住民がだしを取り始めたのだ。政府も全国各地で生産を奨励した。その勢いは沖縄に到達し、その後、沖縄のヒトたちは「かつお節移民」として、南洋群島(ミクロネシア)など南方に渡り、かつお節産業に従事する。戦前、南方は一大産地になる。

(『朝日新聞』(09年2月8日)より)


『自然と人間』(04年12月号)、『北海道新聞』(05年1月16日)、『沖縄タイムス』(05年4月2日)、『文化連情報』(05年4月号)『漁業経済研究』(2007年3月)、『朝日新聞』(09年2月8日号)でも紹介されました。